アメリカでの活動を考えると、必ずぶち当たるのがこのユニオン問題です。
渡米を考えている方で、周りに相談することがあれば、必ずと行っていいほど出てくるかと思います。私もそうでした。
ただ私自身、実際にアメリカで5年以上やってきて「なかなか正しい情報を持っている人は少ないな」と痛感したのが本音です。
第一に、そもそもユニオンに関する情報を持っている人のほとんどが、ニューヨークでの公演をもとに話しているということ。
これは日本での公演をアメリカに持って行くとしたら、ニューヨークがほとんどであることに起因すると思います。
その時に、「いやー、機材が触れないからさ。」と口を揃えて言うのが、通例のように感じますし、これは確かに事実です。
ただ、その情報だけで終わることが9割以上なのではないでしょうか。
そのため、アメリカでの活動=ユニオン加入が必須!と言うことになっているのだと思います。
はっきり言って、それは間違いです。
目次
- そもそもユニオンて?
- ユニオンて会社?
- 地域によって番号がある
- まずどこで働きたいのか
- アメリカでの活動=ユニオン加入は必須か?
- 「機材に触らない」と言うことの意味
- 地域によるLocal Unionの特色
- Local Oneの特殊性
- まずしっかり情報を
そもそもユニオンて?
ユニオンとは、労働組組合のことです。ローカルユニオンとも言います。
舞台に関わる「ステージハンズ」と言われる方々に対するユニオンが、いわゆるIATSE。
International Alliance of Theatrical Stage Employees が、舞台スタッフに対するユニオン、と言うことになります。
労働組組合のユニオンで言えば、例えばゴミ収集員も独自のユニオンがあり、その社会的地位が守られます。
これは誰もやりたがらないから余計に労働組組合でしっかり守ろう、という働きが強いからとも聞きました。
また、ポストオフィサー、いわゆる郵便配達員にもユニオンがあります。その他俳優にも別のユニオンがあります。
ユニオンて会社?
いえ、会社ではありません。一見会社に見えるのもわかりますが。
ステージハンズのユニオンに関していえば、加入していないと受けれない仕事がある、ということです。
また、ユニオン内ではシフターのような役割の方がいて、担当する地域のステージハンズを割り振ります。
加入者であれば、専用サイトにログインし、「照明」、「リガー」など自分のスキルを登録しておいて、募集がかかっている現場にエントリーすることが可能です。
フリーランスにとっては、加入していれば収入の安定が図れますね。
地域によって番号がある
このユニオン発足地はニューヨークであり、その第一号をLocal Oneと言います。多くの方々が口にするのは、この「Local Oneのみ」と言っていいと思います。
Local OneWebサイトです。
ただここで抑えていただきたいのは、このOneという番号です。
Oneがあるってことはそのほかの番号もあり、Local Two はシカゴです。
また、同じニューヨークでも、ブルックリンの方はLocal Fourです。つまり地域ごとに番号も別で、ウェブサイトも別々です。
まずどこで働きたいのか
アメリカと一口に言っても、広大です。
国内だけで4つの時差があり、そのうち1つはハワイですが、本土だけでも3つの時差があります。
また、エンターティメント産業が盛んなロスで働く場合、関わってくるのはLocal 33になります。Oneではありません。
私がよくお伝えするのは、「拠点はどこでやりたいんだ」ということです。
拠点が決まれば、その地域を治めるIATSEの情報を集めないと、意味がありません。
アメリカでの活動=ユニオン加入は必須か?
私はそうは思いません。
もちろん、照明会社によっては、自分の会社で現場がない時にユニオン現場で働けるよう、加入を勧める会社もあります。
また、「劇場に勤務したい」と考えている方は、その劇場がユニオンに統治されている場合は、加入が必須でしょう。
ただ、全てをひっくるめて、「必須」と言うのは、間違いです。
ユニオンと言っても、私の意見としては、ニューヨーク以外は日本で言う「バイト君」と考えていいと思ってます。
人により力量にかなりの差があり、バッキバキに仕事をしてくれる人もいれば、DMXが何なのかすら知らない、近所のおばちゃんみたいな人もいます。
あるスタジアムでのバラシで、ランウェイに仕込んだ大量のAureをバラすのに、私にあてがわれたステージハンズが、明らかに自分の母親よりも高齢な女性で、1台運んで「はぁはぁ」と息をしているのには衝撃を受けました。
その時はもう頼むのをやめて、ケーブル処理だけ頼んで、私が全部バラシました、、。
(じゃないとマジでこの人、倒れちゃうんじゃないかなって、、。)
事実、その方もユニオンなのです。
多くの州を回ってきましたが、「機材に触れない。」と言うのは、ニューヨーク一帯のLocal OneやFour、それとシカゴくらいだと考えます。
「機材に触らない。」と言うことの意味
日本で出回る情報だけでは、「機材に触れない」ことだけがピックアップされ、デメリットにしか聞こえないのも事実です。
確かにLocal One地域におけるルールではありますが、私がお伝えしたいのは、「機材に触らないこと。」はLocal Oneへのリスペクトでもある、と言うことです。
他の地域に比べ、Local Oneは群を抜いて力量もしっかりしています。
私もマジソンスクエアガーデンでの仕込みを何回も経験しましたが、そこでは言葉で説明していくことがメインになります。
というのも、ちゃんと説明すれば、彼らがしっかり仕込んでくれるからです。
また、「Yoshi、次はどうすればいい?」と協力的に聞いてきてくれます。
そうでない場合は、大概ツアークルーとステージハンズとの関係性がうまくいっていないのがほとんどです。高圧的に指示を出していたり、日本的な時間感覚でしか考えていなかったり。
「おっせーな」とか思って、自分で手を出し始めちゃうのが一番危険なパターンです。
最悪、ユニオン組織に報告され、そのツアープロダクションへの警告や罰則、雇われている照明会社に報告が入ったり、その会場の出禁までは行かないまでも、現場の要注意ネームリスト的なものにマークされてしまう場合があります。
地域によるLocal Unionの特色
ここまでは主にLocal Oneでしたが、その地域によりかなり特色が違います。
例えば私の拠点であるシカゴのLocal Two。
正直、私は苦手です。(笑)
と言うのも、ここも「機材を触れない。」部分が強い上に、ステージハンズ自体がすごく高圧的。(笑)
さすがギャングの街、シカゴです、、。
手順などに不満があると、動いてくれないことなんてザラにあるますし、仕込み方法にもバンバン不満をぶちまけられることも。(笑)
まぁ、そこをうまく対応するのが、一流ツアークルーでしょうね。
ヒューストンやアトランタも、なかなか特色が強い印象があります。
この辺りでは、仕込み、バラシをガンガン自分でやっても大丈夫ですが、ある日、バラシでクルーチーフが私に割り当てたステージハンズの一人に、「アジア人と働きたくねー。」と言われたこともありました。
こう言う場合、あまり気にしないで、任せる仕事のバランスを考えるのがスマートでしょう。
こればかりは、バラシ終わりにツアーバスでみんなと乾杯して、深く考えるのはやめました。
また、テキサスのさらに南部側ではメキシコからの人も多く、スペイン語しか話せないステージハンズがほとんどだった時には本当に苦労しました。
その時はスタジアムツアーで、9台ある照明トラックの積み込みを自分一人でさばかなくてはいけないにも関わらず、英語が通じないので、全く動いてくれませんでした、、。
それを見かねた映像のクルーチーフが、スペイン語が話せたので手伝ってくれましたが、なかなかタフな経験でしたね。
Local Oneの特殊性
以上のことを踏まえ、私がお伝えしたいのは、よく語られているユニオンのこと自体が、ユニオンの中でも特殊なLocal Oneをはじめとするニューヨークに関することのみに絞られた情報だ、と言うことです。
その特殊性についても少しお伝えします。
まず、他の地域のローカルユニオンに比べ、そもそも加入するのが大変難しいです。
と言うのも空きがないと募集しませんし、試験もあります。
それらをクリアするまでに時間もかかります。
また、プロダクションサイドにおいても、Local Oneを雇う価格はとても高額です。
Local One自体の地位的なものもそうですし、加入者にとってみれば給料も安定してきます。
なので、余計空きが出ないですね。
また、Local One地域では仕込みで必ずBlack Stageという時間があります。
これは休憩時間のことですが、この時間内にステージエリアに入ること自体禁止になります。
他の地域では、基本的にはステージハンズだけ休憩に行かせて、自分は作業を進められる場合がほとんどですが、Local Oneでは厳禁です。休憩中の作業は誰であれ、厳禁です。
以上のことも踏まえ、「ニューヨークのブロードウェイで働きたい!」と思っている方はLocal Oneの情報をしっかり集めてほしいと思います。
難しい=不可能、ということではありません。
難しい分、加入できればそれだけでステータスにもなるのも事実です。
まずしっかり情報を
自分の場合、渡米する準備が最終段階に入っても、ユニオンのことが把握できず、と言うか、、。
人に聞く以外、情報をどう探していいかもわからず、「もう行ってみるしかないや」という状態でした。
話を聞いた日本のある方からは「ユニオンって、世襲制だから君には無理じゃない?」なんて言われたりもしていました。(もちろんこれは間違いです。)
そんな中、実際に行って働いてみて「バイト君じゃないか、、、」と拍子抜けしたのを覚えてます。
そのくらい情報としては曖昧でした。
なので、活動を考える地域とその形態(ツアークルーなのか、劇場なのか etc…)、ジャンルなどもしっかりふ踏まえたうえで、ユニオン情報を押さえましょう。
ユニオン制度をネックとして渡米を諦める。と言うのは、何かもったいなさすぎて、ここに記載してみました。