コンソール、Node、NPU、Switchをはじめ、照明のネットワーク接続において必ず出てくるのがTCP/IPのことですが、今回はその中の、IPアドレスについて記載してみました。
この分野は、舞台照明というより、
インフラエンジニアリングの勉強になるので、苦手な方も多いのではないでしょうか。
まさに、私もそうでした。
ただ、フェスティバルツアーで、ローカルクルーにツアー機材で使用しているIPアドレス表をメールし、すり合わせないといけない、
またはプログラマーに仕込みで使用してるIPアドレスを報告しないといけない等、必要に迫られることが多々あり、必死に学んできました。(笑)
単に「ここは、これ。」と記載したところで、根本がわからないと、意味不明な暗号を丸暗記しているのと同じになってしまうので、ここではその基本的な部分を記載してみました。
IP アドレス – 名称
名称は、
インターネット・プロトコル・アドレス。
ネットワーク上の「住所」を表すものです。
ただ、ここでいうネットワークとは、照明における「小規模ネットワーク」であり、
LAN = Local Area Network
になります。
オフィス内のパソコン同士の接続なども、同様です。
つまり、同じ建物など限定された範囲で接続できるネットワークです。
一方で、
WAN = Wide Area Networkは、
モデムを介し、ブロードバンド回線を利用した大規模ネットワークを指します。
LANとISP (インターネットサービスプロバイダ)を結ぶルーターは、WANルーターといわれ、WANは、LANの利用者がISPと契約しなければ、使用できません。
いわゆる世界中と接続できるインターネットのことです。
遠く離れたLAN同士を接続することができます。
そのため、皆さんの部屋でも、Wi-Fi無線機のWANは部屋の電話回線に、LANはパソコンやその他の機器に接続したと思います。
IP アドレスの種類
IPアドレスには、
IPv4 アドレッシングと、
IPv6 アドレッシングの、
2種類存在します。
Version4と、Version6ということですが、Art-Net、MA-Net、sACNなど照明で使用されるネットワークはIPv4になります。
ちなみに、Version 5はどこへ?って疑問になると思うのですが、IPv5 はIPv4と同様に32ビットであり、ST/IPv5、ST-Ⅱなどの名前で存在したみたいですが、ストリーム志向の実験的なプロトコルということと、32ビット における同様の枯渇問題(後に記載)を受けて、公に使用される前に発展を放棄されてしまったみたいです。
IPv4 と IPv6
少し照明からは遠ざかってしまいますが、重要なこととして。
このIPv4は、32ビット = 2の32乗。
結構な数に見えますが、2011年にはすでに枯渇問題にさらされ、管理するネットワークごとに節約してくれ、ということになり、新規でのIPv4の取得は困難になってます。
ただ、自分のパソコンのIPアドレスを調べると、「IPv4やんけ。」と思うのは、DHCPによりコンピューターがネットワークに接続する際に、そのLAN内において自動でIPアドレスを割り当ててくれるからです。
また、照明でよく使用するのは、
LAN=小規模ネットワーク
その中で設定するIPアドレスを「プライベートアドレス」と言いますが、これは公共のIPアドレスの枯渇問題に関係せず、そのネットワークごとに設定することができます。
そのため、「その仕込み内でのネットワーク」をしっかり管理・把握するために、IPアドレスを設定する必要があります。
会社のオフィスでも同様で、もしも重役オフィス、経理オフィス、営業部オフィスの各部署が同一のLANであった場合(つまり同じネットワーク上にあった場合)、アクセス状況としては、ある意味筒抜けです。
新入社員が社長のパソコンにアクセス可能です。これはやばい。
そこで、IPアドレスでネットワークを分けて管理する必要性が出てきます。
この辺がまさにインフラエンジニアリングの部分です。
一方、
以上の枯渇問題を受け出てきたIPv6。
IPv6は、128ビット = 2の128乗。
ここでは128ビットにも及ぶアドレス設定が可能、ということだけにして、照明におけるIPv4にフォーカスしてみましょう。
IPv4 の構造
IPv4の32ビット構造は、二進数で表すと、32行の0と1。
表示するときは、これを8桁ごと、つまり8ビットごとに区切ります。
8ビット=1オクテット。
ただ、ぱっと見、わかりずらい。(笑)
そのため、これを人が使用する十進数にし、
その数字の配列が卓で表示されるIPアドレスになります。
左から
第一オクテット、
第二オクテット、
第三オクテット、
第四オクテット、
と呼び、
ネットワーク部+ホスト部の2種類に分かれます。
ネットワーク部 + ホスト部
想像しやすくするための一例ですが、
IPアドレスという住所に対し、
ネットワーク部は、いわば「建物」であり、ホスト部は「部屋番号」です。
ネットワーク部の領域が少なく:ホスト部が大きい
建物数は少ない:部屋数が多い
=高層マンション
ネットワーク部が多い:ホスト部が少ない
建物が多い:部屋数は少ない
= 一軒家の住宅街
のような関係性です。
どちらも宛先を管理できますが、照明のデバイスを割り当てられる数は、
「ホスト部の数」になってきます。
そのため、デバイス数に応じて、適切なネットワーク部の大きさを選択することになります。
このように、ネットワーク部とホスト部に分けることを「クラス分け」と言いますが、
以下、その分け方について記載します。
クラス分け
このネットワーク部+ホスト部を8ビットごと(オクテットごとに)分けることを、「クラスフル」と言います。
ちょうどこの、dotで分けたものです。
一方で、「クラスレス」とはこのdot部分に限らず、
ネットワーク部とホスト部を任意で分けたアドレスのことです。
この分け方を、「サブネットを使用して分ける」とも言います。
なので、
クラスフル = サブネットを不使用
クラスレス = サブネットを使用
という言い方もします。
よく出てくる「サブネットマスク」とは、このネットワーク部とホスト部を分ける範囲をどこにしますか? という設定になります。
クラスの種類
以下がクラスの一覧です。
全てクラスフルでデフォルトの分け方の状態です。
照明で使用するのは、主にAとCです。
予約されたホスト部
ホスト部には、デバイスに割り当てることができない番号が、2つだけあります。
それは、二進数における
ホスト部が全て0 =ネットワークアドレスとして使用
ホスト部が全て1 =ブロードキャストアドレスとして使用
そのため、
例えばクラスCのホスト部は0-255全ての範囲で使用できるのではなく、1-254まで。
0と、255は「すでにネットワークアドレス、ブロードキャストアドレスで使用します」と予約済み、
ということになります。
そのため、192.168.0.0と、192.168.0.255は、NodeやNPUに設定しないようにします。
先にも述べたとおり、
「最大ホスト数=同一のネットワークに、いくつデバイスを接続できるか」
ということになるので、ここを押さえておくことは重要です。
一般的なクラスの設定方法
以下、インフラエンジニアリングのテスト問題ですが、知っておくと便利です。
問:会社内のパソコン300台を、同一のネットワークで接続したい。適切なクラスは?
この場合、クラスCだとホスト部が最大254で、254台までのパソコンしか同じネットワークに割り当てられない。足りない!
なので、クラスBが正解。
ただ、300台全てに、個別にホスト部を割り振っても、
300 = 二進数で100101100 = 9ビット (右から9桁) あれば十分です。
クラスBで本来使用できるのは16ビット (右から16桁)で、クラスフルのままでは、残りの7ビットがもったいない。
ここで先ほどの「サブネットマスクを使用する(クラスレス)」ということがでてきます。
すなわち、ギリギリまでネットワーク部を、ホスト部へ寄せる、ということです。
これを「サブネット化」と言います。
これにより、さらに細かくネットワークを分けることも可能となってきます。
プレフィックス表記
以上のように、クラスレスで任意に切ってしまうと、
どこで切ってるのか、分かりづらいですよね。
例えば、クラスBのサブネットマスクのデフォルトが
255.255.0.0
=11111111.11111111.00000000.00000000
これをサブネット化して、
255.255.254.0.
=11111111.11111111.11111110.00000000
これをぱっと見で、どこで分けているのか、わかりやすくするのが、
プレフィックス表記(もしくはCIDR表記)です。
172.1.2.3/23 = 23ビット目(左から23行目)にネットワーク部がきれ、
ホスト部になる。
スラッシュ記号を入れることで、ぱっと見でも、何桁目にきれるかがわかります。
で、照明は・・・?
やっと照明のことに戻ってきました。
クラスとしては、
Art-NetはクラスA、
MA-NetはクラスC、になります。
ただ、Art-Netのサイトを見ると、
「デフォルトが2.X.X.X.であるというだけで、状況に応じ、10.x.x.x.、192.168.x.xでも使用できます」となってます。
実際どうか。
Art-NetはクラスA
現在のArt-NetはArt-Net4です。また、スペックシートにはDHCPでのマネージメントも、Static Address (前述したプライベートアドレスを任意に決めること)も可能である、
と書いてあります。
また、Art-Netは、デフォルトとしてクラスAに対応し、これによりDHCPサーバーを使用せずとも、コミュニケーションが取れる、という記載もあります。
そのデフォルトが、2.x.x.x
サブネットマスクは255.0.0.0
ということで、最初の8ビットまでがネットワーク部、残りの24ビットはホスト部、ということになります。
先ほどのサイトスクリーンショットには、
「192.168.x.xでも使用できます」とありますが、私個人としては、
Art-NetをクラスCの192.168.x.xのIPアドレスで使用したことはありません。
基本的にデフォルトの、2.x.x.xでArt-NetのIPアドレスを設定します。
私個人としての、その理由は以下3つ。
1、MA2において、イーサネットポート2からのArt-Netに対応するIPアドレスは、2.x.x.x、もしくは10.x.x.xのみであると明確に記されているから。
2、Art-Netプロトコル、MA-Netプロトコルが混在する現代において、わざわざArt-NetのデフォルトIPを変えてクラスCに下げ、MA-Netプロトコルと同様の192.168.x.xに寄せる必要性とメリットが理解できない。
クラスCに下げた分、ホスト部が小さくなり、ネットワーク上で使用できるデバイスの数も減っていきます。
3、他の種類の卓においても、Art-Netの一般的なIPアドレスとクラスが2.x.x.xであるという認識がほとんどの中、混同させたくない。
以上のことから、基本的にはクラスAで使用してます。
ブロードキャスト/ユニキャスト
Art-Netで押さえる必要があるのが、信号の放送形態です。
まず、ブロードキャストは、同ネットワーク上に存在する全てのデバイスに問答無用で送信します。
いわば、NHKみたいなものでしょうか。(笑)
テレビを買ったら、必ず受信してしまう、あの問題です。
同様に、2.x.x.xの同じネットワーク部に所属していれば、信号を受信します。
「コンソールからの一方通行に流れてくる信号を読み取る」ということです。
一方、ユニキャストは、ターゲットを決め、そこへのみ送信します。
なので、送信先の住所を明確に知る必要があります。
その時によく使用するのが、10.x.x.x.のIPアドレスです。
特定のPCへ信号を送信したい!という時にも、役立ちます。
家で使用するパソコンを調べると、10.x.x.x.のIPアドレスになっている方も多いのではないでしょうか。
MA2 設定画面でも、Art-Netを[Output Unicast]にすると、[Destination IP]の入力ができます。これが行き先のIPアドレスです。
MA-Netは?
MA-NetはクラスCになります。 192.168.x.x.の領域です。
ここで、先ほどのインフラエンジニアリング問題が生きてきます。
MA2のネットワーキングにおいては、[Create Session]により、
1つのネットワークを区切ります。
ではその1つのセッションに入れるデバイス(Node, NPU, バックアップ卓)の最大数はいくつなのでしょうか?
MA Lightingのスクリーンショットですが、「1セッションに対する最大数が200」となってます。
なので、インフラエンジニアリングの観点からも、ホスト部の最大数が1-254のクラスCが適切で、無駄がないですね。
まとめ
基礎的はことはここまでで一度区切り、
次回はIPアドレスの種類と設定について記載したいと思います。
サムネイル写真:Josh Sorenso
スクリーンショット:Art-Netウェブサイト、MAlighting社ウェブサイトから