Part 1で、ムービングライトの特性まで書かせて頂きました。今回はその続きです。
とその前に。
記事を書いてる理由。
今年で渡米7年目になりますが、帰国すると様々な方とお話しする機会があります。
大変ありがたいことです。
まぁ、時として「君はたかだか仕込み屋でしょ?」という反応だったり、「コンサートのことは私にはわからないから、他と話した方がいいよ」と直接言わるという、残念な経験もありますよ。
明確なポジションの種類が、アメリカに比べると日本は少ないですから、
『〇〇のツアーでは、FOH Technicianをやってました」と言っても、伝わらないですよね。
「へー、で、卓とかやってるの?」と、だいたい完全スルーで返されます。
また、人から聞いたであろう「アメリカはこうだ!」という、かなり偏った知識の中で、まるで自分の「答え合わせ」かのように「あれって、こうでしょ」と、押し付け的な会話をされたことも、多々あります。
そうなってしまうと、訂正したところでほとんど聞き入れられないですから、私はそれ以上戦いませんが、そんな時に「あぁ、やっぱりまだまだ知られてないこともあるんだな」と思い、他の記事も含め「本当に知りたい人」へ、少なくとも自分のサイトに書いてみた、というところが、記事を書いている大きな理由です。
もちろん、耳を傾けてくれる人はたくさんいますし、何より、海外での活動を考える方のためになればと思います。
実際に海外挑戦を考えていて、話を聞きたいという方から連絡が来れば、直接Zoomを行ったりもしておりました。
ただ、現実として「このご時世、アメリカと日本を行き来するなんて、世間的にも迷惑だ」と思う方もいるということを、しっかりと受け止めなければならないことも、ここに記載しておきます。
コロナ渦の今は特に、正しい情報を話す人も、話せる人も、少なくなってしまったと感じますが、この状況下でアメリカで働くこと自体、どういう価値があるのかも、変化し続けていると思いますので「広い視野を持っての熟考」が必要になってくるでしょう。
灯体のテスト後
灯体のテストがあらかた落ち着いた後は、FOHへのスネークを引いていきます。
その際、必ずステージマネージャーに導線を確認します。その上をフォークリフトが通ったら大変ですから。
フェスティバルツアーであれば、ローカルの照明チーフに確認し、彼らのスネークを使用するのか、自分たちの持ち込み機材を使用するのかを決めます。
これは機材の信頼性や仕込み時間、使用しているネットワークに左右されます。
例えば、気を効かせてくれたローカルクルーの場合だと、
・ローカル機材の制御プロトコル:
→全てsACN
・ローカル機材のIPアドレス:
→最後の3桁は通常あまり使用されないような番号へ
・ローカルスネーク:
→Ether-Con x4本 オープン
と、乗り込みチーム用にArt-Net、MA-Netはすぐにコンバインド可能なシステムを組んでてくれました。
最高です。
そうでない場合は、、、、、お察しください。
長い一日になります。
アメリカのスネークの場合、
・インカム用マルチ回線
・ファイバーケーブル(Quad)
・ファイバーケーブルスペア(Quad)
・8/5 ケーブル (Max 30A)
がワンセットになってますから、ディマーシステムが通電できていれば、8/5ケーブルにより、卓も生かすことができます。
そこから初めて「卓周りの仕込み」になります。
インカム回線はマルチ形状で、ラック内の末端で複数本の3PIN、6PINに変換されてます。
昨今、これがなかなか便利で、インカム回線としての使用だけでなく、SMPTE TimecodeをFOHからステージに流すこともできます。
大体FOHのサウンドエンジニアからタイムコードソースが来ますが、トラブルシュートも兼ねて、Timecode Distripalyzer など、カウント表示が出るものをディマービーチ側でも見れる状況にすることが重要です。
その他、ファイバーケーブルにおいても、ROBO SpotのBase-Stationをステージ側に設置し、
灯体を客席のディレイタワー側へ設置、という仕込みをする際には、
コンソールからの信号:
FOH → Stage
Base-Stationを経由した信号:
Stage → FOH
と、双方向に信号を流したりもします。
全体としては主にMA-Netを使用しつつ、
Base-StationからのDMX信号をディマービーチ側のLiminex Nodeで受け、
ポートのIn/Ont切り替えることで、FOH側のLiminex NodeでOutを受けれるようにし、
事実上Art-Net回線を利用する形でFOHへ信号を返す、という少し複雑なことをしました。
これは別の記事で書いた方がいいかもしれません。
写真はそのディレイタワー。風で揺れるのは、どうしようもありませんでした。
卓周りの配置について
まず、ここでのゴールとは何でしょうか。自己満的に、独断と偏見で配置しているわけではありません。
一番は、ツアーのLighting Director、Operatorが、気持ちよく本番を行える、ということです。
・メインコンソールとその机の高さ
・外部モニターの配置場所
・バックアップコンソール
・私用のテックコンソール
・インカム
などの配置に注意します。
最初の仕込みでLD にアレンジを聞いて、写真を撮って、次の会場では全く同じに仕込みます。
また、野外で暑いのであれば、空冷システムを入れたり、卓への遮熱対策をしたり。
冬であれば、ヒーターの手配もします。
PinのCueもコールする彼らにとっては、ヘッドセットはSingle-Muff、Double-Muffのどちらを好むかも確認した方が良いでしょう。
LDによってはノイズキャンセルに優れたDavid Clarkモデルを好む方もいます。
その他、別の記事でも書いた、定期的な卓のクリーニングだけでなく、スマホ用の電源を出しておいてあげたり、フロアにはクッションの効いたゴムマットをひいておいてあげたり。
立ちっぱなしも辛いですからね。
ドリンクホルダーなんかもテーブルに配置してあげたり。
私は自分のワークボックスにNespressoマシンを入れてたので、FOHにコーヒスタンドを組んで「コーヒー飲みます?」と聞いたりもします。
もちろん私もコーヒー好きなので、飲みます。
いろんなテイスト、濃さのPodsがあるから、良いですよね。
使い終わったPodsはもちろんリサイクル。
リンク貼っときます→ Nespresso
あとは、LDが好きなガムやスナックもツアー中に買ってきて、FOH用のボックスに入れておいてあげたりもします。
ある時「日本のBlackBlackが好きなんだよね」と言われたので、アマゾンで取り寄せたりもしました。
さすがロッテ。
仲の良かったカナダのLDとツアーを回っていた際には「Sour Patch」というアメリカのグミにハマりすぎて、二人でムービングのフォーカスを取りながら、かなりの量を消費。
途中で「俺ら、さすがに食い過ぎじゃね?」と二人で自粛したこともありました、、、。
写真添付します。コーヒースタンドとともに、左側にあるのが、それです。明らかにやばそうな色ですが、癖になると止まりません。良かったら是非。
どうでしょうか。
決して、彼らに媚びているわけではありません。
自分がLighting Director、Operatorだったらどうでしょうか?
毎回配置が変わる、汚い、寒暖の激しい過酷条件、その中でリスクを伴う本番オペレート。
嫌じゃないですか?
FOH Techとしての仕事を完遂しているだけです。
また、実質私をアメリカに連れて行ってくれた大べテランのLighting Directorの方は、
「Yoshi、FOHは客から見えるから、必ず綺麗にしろ」というアドバイスも頂きました。
そうです、周りはお客さんなのです。
そのツアーの品格も問われるでしょう。
偉そうなことを言っといて、上記の写真はとっ散らかってますが、客入れ前にはしっかり片付けてます。
ゴミ箱もしっかり手配しますから。
誤解なきよう。
ファーカス作業
バンドへのフォーカスなどは、インカムを着けてステージに立ち、フォーカスを手伝います。
これは何もFOH Techでなくてはいけない、ということはありませんが、手伝うことが多いです。
テレビ収録の入るコンサートなどでは、Sekonicをはじめとする照度計で、フォロースポットの明かりさをチェックします。
昨今では、
・Follow-Me System
・PRG Ground Control
・ROBO Spot System
・BlackTrax
・Spotracks
など、ムービングライトをフォロースポットとして使用することが、大変多くなってきました。
この場合、照度計を握るのはLighting Directorで、
卓でZoom, Focus, CTO, CTB,の調整をするのはFOH Techです。
まず、ターゲットをどこにするのか。
つまりは、どのくらいのFoot Candle、Kelvinにするのかは、Lighting Directorと共有しておく必要があるでしょう。
仕込み時の灯体のチェック段階で、光軸調整をサボると、ここに響きます。
ホットスポットのある灯体ほど、照度計測でストレスになることはありません。
きつかった野外でのフォーカス
野外スタジアムツアーで、バンドメンバーが客席で演奏する、というシーンがありました。
もちろんそこへのフォーカスを取らないといけませんが、その時は真夏でした。
客入れが17:00で、フォーカスできるのは、カンカン照りのお昼過ぎです。
使用する灯体は、DS Truss に吊った ClayPaky / Scenius Unico、2台。
真夏の昼過ぎで、しかも距離にして200mは離れてますから、ハイライトしても見えません、、。
汗だくになりながら客席を右往左往した挙句、本番でズレてる、なんてこともありました。
本番でそのUnicoがカットイン後、
ゆっく〜りマニュアルでPANして行った光景は、今でも忘れられません。
バンドフォーカスなどシビアなものは、客入れ後、開演前にチェックします。陽が落ちてからの最終チェックです。
ちなみに、私のプロフィール写真は、客入れ後の、まさにフォーカスの最終チェックを行っている時で、友人が撮ったものです。
まさに、晒し者ですね。
本番!
さぁ、やっと本番です。
Lighting Directorによって、その役割度合は変わっていきますが、具体的には、
・異常があった灯体のソフトリセット
・ハードリセットのコール
・スモーク調整
・スモークファンの風向き
・客電Cueのケア
・フォロースポットのケア
などを行います。
大規模な公演になると「HAZE」と「FOG」を使い分けますし、レーザーが入るシーンなどはよく見ておかないといけません。
ビッグなLighting Directorになると、本番後に本人と帰るため、
客出しに巻き込まれないよう、最後の曲の途中でコンソールを離れる、
なんてこともあるので、そこからは私がオペレートとピンのCueを代行します。
あるツアー中の公演前に、
「Yoshi、今日はPinのCue、全部お前な」
と突然LDに言われ、Cueを出したこともあります。
その公演はタイムコードショーだったので、彼の仕事のほとんどはPinのCue出しのみだったのですが。 (笑)
私に目をかけてくれてた方だったので、トレーニングも兼ねてでした。勉強になりましたね。
また、本公演前にオープニングアクトの公演があれば、私がオペレートを行ったりもします。
私自身「本番中は、必ず何か起こると、思ってます。
やはり気が抜けないものです。
できれば灯体番号は全て頭に入れておくべきですが、「早見表」的な図面を自分で作り、パウチ加工して、毎本番見れるようにしておくことも必要でしょう。
インカム回線は必ず、
A = LD+フォロースポット
B = テクニカル回線
とで分け、トラブルシュートに対応します。
ハードリセットをディマーガイに伝える際に、LDに聞こえる必要はありませんし、必要であれば、私がチャンネルを切り替えて伝えます。
常に風向きが変わる野外でのスモークファンの向きなども、別回線があればオペレートに邪魔にならずに、こまめに指示できます。
本番中のLighting Directorとの直接的なコミュニケーションは、さすがに「センス」が問われるでしょう。
遅すぎず、
邪魔にならず、
明確に、
短的に。
最後にPinのCue出しで余裕がない私の後ろ姿の写真を添付しておきます。
隣のLDに卓を乗っ取られなように、日本国旗を貼っときました。
Part 2も長々となってしいました。
バラシからまとめは、Part 3で。
写真&文 Yoshi