今回は、「FOH Technician」について書いてみようと思います。
全部でPart1 – Part3 の構成にしてみました。
(裏話をすれば)
コロナ前に照明家協会への寄稿用に書いたのですが、
そちらには、しっかりとコロナの現状を伝える記事を書いたほうが絶対に良いと思いますし、そうなると記事を出す機会がなくなってしまったなと思い、こちらに掲載してみました。
FOHって?
Front Of House の略です。最初のアルファベットをとって、F.O.H.
アメリカの場合、
Stage Right
Stage Left
Down Stage
Up stage
など、全て「舞台側から」が基準になりますから、Front Of House は舞台から見たフロント、「卓周り」のことを指します。
はい、ここで余談です。
私がまだ新人の頃で、日本の会社に所属していた時。
(ご年配の男性) フリーの方と海外アーティストの本番で、ピンに上がっていた時のこと。
ドヤ顏で「LDがStage Leftって言ったろ!だから下手だ!そんなの基本じゃねーの!」
とインカムで思いきり怒鳴られましたが、案の定、本人が上手から「ニョキっ」と出てきた時のことを、今でも鮮明に覚えてます。
その人の言い間違え?と思うかもしれませんが、実は、私も新人ながらカチンときていたので、
「いや、、上手じゃなかったでしたでしょうか、、」とお伝えしたものの、「下だろ!」と聞き入れてくれなかったので、もう諦めたのでした。
もちろんその後は、しっかりシカトを喰らいました。
反面教師として「自分は将来、そうならないようにしよう」と、こっそり心に決めたものです。
今思い返すと、逆に、あれがあったから鮮明に SR, SL, US, DS, FOHを自分に叩き込んだ気もするので、「ご指導、ありがとうございます」ですね。
余談でした。
こんなネタなら、あと2億個くらいあります。
で、要は卓周りだけ?ネットワーク系の人?
もちろん、そうではありません。
そんな「White Hand」な仕事なわけ、ないじゃないですか。
「システムテック・オンリー!」みたいに聞こえたり、現にそう誤解している人も多い気します。
少なくとも私の意見としては、全くそうではありません。
以下、その時々のクルーチーフの意向もあることをご理解頂いたとして、
「仕込み〜フォーカス〜本番〜バラシ」の大まかな流れがあるとしたら、
最初のFOH Techの仕事は、そのさらに前の「トラックのケア」から始まります。
トラックのケア
このサイトの「ツアーでのコンソール管理」の記事を読んで頂くと、最後に卓の積み込みについての記載が出てきます。
あれは何も、最後に私が卓だけトラックに持ってきて、「一枚パシャり」 ではありません。
PRGの友人と、10人以上のステージハンズを使いながら、11台に及ぶ照明トラックへの積み込みをさばきながら撮っておいた、一枚です。
そんなわけで、朝一、アリーナもしくはスタジアムに着いたら、クルーチーフとスペア機材を貯める場所の確認や、機材ケースを流す導線、その他クルーの場所を確認していきます。
スタジアムによってはトラックを着けられる搬入スペースが、長い地下通路を通った先の、公園の一角、なんてこともありますし、有名なニューヨークのマジソンスクエアガーデンの場合、アリーナレベルは5階で、搬入は1階レベルの外、つまりダウンタウンのど真ん中で、大量のフォークリフトにより行います。急勾配の螺旋状の搬入通路を、全てフォークリフトにより入れていくのです。
つまり、マジソンスクエアガーデンの場合、搬入搬出の順序を間違うと、仕込み、積み込みが全て停滞し、終わります。
以下写真は、その急勾配の螺旋状の搬入通路。下り方向に眺めてます。スケボーが欲しいです。
FOH Tech、私の入り時間。
以上のことでもわかるように、私の入り時間は他のクルーより早いです。
仕込み日の例で行くと、、
10時搬入の場合、クルーチーフとヘッドリガーは吊り点のマークアウトの為、9時には入ります。その場合、私も9時ですね。ディマー担当も同じ時間が多いです。
他のクルーは、場合により9時半から11時が多いかなと。
「え、他は11時?遅刻じゃない?」と思いますよね。
冗談ではなく、これは「体力の温存」のためです。
本当に大事。
3ヶ月、4ヶ月続くツアーで、できる限り「時差出勤」を作り、負担を軽減させます。
これが30回、40回ある仕込みで積み重なっていったら、どうでしょうか?
1時間の温存 x 40回=40時間=実質2日間弱のオフ日完成です。
もちろん、この辺りの采配はクルーチーフの力量によります。しかしながら、あまり日本にはない考えではないでしょうか?
11台もトラックがあると、もちろん結構な時間がかかりますが、その間、ステージ上では搬入された機材が、仕込み可能になれば、他のクルーでガンガン仕込んでいきます。
その為、スタジアムクラス(NFL用スタジアム、MLB用スタジアム)になると、全ての照明搬入が終了したころには、いくつかトラスが上がってます。
搬入後
トラックのケアが終わると、ステージに向かい、テスト用のコンソールをステージ上に仕込みます。仕込みが完了したトラスがあれば、通電をディマーガイにお願いし、テストしていきますが、そうでなければ、私はTetherの仕込みに回ると、チェック作業へスムーズに行くことができます。
「Tether」という言い廻しは、日本では使用しませんよね。
私もクルーチーフに「Please take care of all tethers, Yoshi」と言われて初めて学びましたが、
「Tether = ロープ、鎖」のことです。なんのことかというと、この時は主に、ネットワーク系の配線接続のことでした。
Stage Right, Stage Leftで、別にディマービーチがあり、NPUやスイッチ関係もそれに順じて分かれている場合、イーサコンやファイバーでメインスイッチまで配線する必要があり、それらの仕込みを行なっていくのです。英語では「ロープで繋ぎ合わせていく」という感覚でしょうか。
NPU, NSP, Giga Bit Switch, I-Com, UPSなど、すでにツアーパッケージとしてラックに組まれてますから、悠長にシステムから現場で組んでいく、なんてことはしません、、。しかもそれらのラック仕込みはディマーガイが行います。FOHテックではありませんし、そもそもそんな暇もありません。
また、自分でネットワーク系の配線接続をすれば「スムーズに行く」と記載しましたが、これは自分で確認も込めて作業するからです。
もうすでに配線されていれば、そのままテストしに行きますし、何かあった際に、自分の中でのトラブルシュートの確認項目として「配線も確認してみるか」と思うくらいで、他のクルーを信用していないわけではありません。
誤解なきよう。
フィクスチャーのチェック
Show Fileにテストキューが入ってることもありますし、なければFOH Techで作成することもあります。
作成する際は、Cue内容をクルーチーフにフィードバックする必要があるでしょう。自己満足に一からCueを作成し、トップや前明かりでしか使用しないフィクスチャーの、全く使用しないゴボを確認することなんかに、時間を無駄にできないからです。
「それじゃテストじゃない!」と豪語する方へ。お好きにどうぞ。
1000台近いムービングライトを使用し、限られた時間内での作業が必要な中、頭を使わないと、融通の効かないただのバカだと、私は考えます。
もちろん、プログラマーがどのようなシーンを打ち込んでいるかなど、初日の仕込みでわかるはずもないので、ツアー中に本番をしっかり見て、学ぶ必要があるのは、言うまでもありません。
また、フィクスチャーチェックと言っても、ずっとコンソールにへばりついているわけでもありません。
ムービングライトの「通り」、つまりハードフォーカスの意味で灯体がまっすぐに吊られているか、配置されているか、ケーブルがPAN / TILTに干渉しないか、などのチェックもFOHテックの役割です。クルーチーフはセーフティチェックはしますが、細かい灯体のケアは私です。
また、NGと思われる灯体のチェンジをコールするのも、私です。そこで遠慮すると、後々もっとタイムロスにつながることが多い。
また、それぞれの灯体がどんな癖をもっているかを、しっかり把握しておくことも重要です。
灯体の特性:一部の例
・Martin / Mac Viper シリーズ全般
電源ONからキャリブレート終了まで、かなりの時間がかかります。仕込みOKであれば、早め早めの電源ONが必要。またその際、ズーム機構が一番ランプ側に押された状態で電源ONすることで、フォーカス、ズームエラーの軽減が可能。また、こまめな光軸チェックが必要。特にAir FXタイプ。
・Elation / Dartz 360
マゼンタカラーでスタックしやすい。RGBモジュールは入念なチェックが必要。
その次にネックなのがプリズム。こちらも入念なチェックが必要。
・Martin / Mac 2000, Mac Viperシリーズ全般, その他フラッグタイプのCMY機材
こちらもCMY+CTOが引っかかりやすい。入念なチェックが必要。
耐熱タイプのグリーズは、ツアーに必須。できればカラーフラッグが、全開から少し閉じた値のCueがあると、終演後のLamp OFFと同時に使用するのに良い。
・VARI-LITE / VL4000 シリーズ
ディスプレイがよくバグる。これはアッパーボックスを外して、内部のカートリッジの抜き差しで、すぐに直せる場合が多い。
・VARI-LITE / VL3500 FX
インターナルレンズの細かいケアが必要。運搬時は必ずクローズ。そのためのCueも考えておく必要有り。内部のゴムベルトに要注意。ゴム山が擦り切れてスリップ多発。特にカラーフラッグ。また、Color Snap設定の Enable/Disableが全台統一できているかのテスト必須。
・VL6000
電源が活きない場合、True1 コネクタのNG以外は、まずFuseを疑う。
挙げたらきりがありません、、、。
この辺はツアー中のNGや、会社での作業で、自分の中で情報を貯めていく必要があるでしょう。そしてその情報は常に更新が必要です。
骨董品みたいな古いムービングライトの話で盛り上がるのは、飲み会くらいで。
また、時として灯体がどのようにバージョンアップしたのか、確認する必要もあります。
GLP / JDC-1 を大量に使用していた際、ツアーブレイクを挟んだ後に、スペアを交換したのですが、会社でバージョンアップされていました。これがどういう内容なのか、会社も把握できていなかったため、GLPに直接問い合わせると、「調光カーブを少し改善させた」と言われました。
そうなってくると、大問題です。
そのほかのJDC-1もバージョンを上げるのか、新しく来たスペア灯体のバージョンを下げるのか。
この時の結果といては、デザイナーも明かりを作り切った後なので、新しく来たスペア灯体のバージョンを下げ、同じ明かりをキープすることにしました。
この時は会社でのメンテナンス期間でしたが、気にせずツアー再開後に、
現場で灯体を交換したら、大変なことになっていました、、、。
どうでしょうか?
FOHテック = ネットワーク系の人
と言う印象も、だんだん変わってきたのではないでしょうか?
この続きは次回、Part 2で。
写真&文 Yoshi