
Part 1 – Media Server Programmer
今年度は、当初より年間を通して、Programmer 及びOperator に徹しよう、と考えていた。その通りに、昨年(2024年)の年末からJanet Jackson のラスベガスでの長期公演に、Media Server のProgrammer として関わっていた。
公演は4期間に及び、1期間1ヶ月から1ヶ月半、その後ブレイクが入る。今思い返しても、難しかったことの一つは、Communicationの部分だと思う。
これまでのCrew Chiefでの経験が生きるかというと、私自身、全くそうは思わない。ほとんど別人格で挑まないといけない、くらいの違いを感じた。一つひとつの発言や、先回りしての準備、それはアーティスト(もしくはCreative Director など)の意向への準備であり、意思疎通ができていないと、そもそも的を得たものにならない。長年同じチームでやることの意味も、そこにあるのだろうと思う。
技術的なことで言えば、大きな反省点・課題は、自作PCでサーバーを再生することの難しさ。それは主にトラブルシュートに起因するが、その場合、サポートは受けられない部分が発生する、ということ。何も、自己判断で自作PCになったわけではなく、予算によるもので、メーカー推奨のPC作成手順に基づいていたが、それでも結果的になかなか難しいものになってしまった。
一度公演が始まってしまった後は、オーバーホール的なメンテナンスが難しくなる中で、トラブルの原因がCPUコアや、BIOSなどに起因することが見えてきた時に、かなり神経をすり減らした。ソフトウェアに起因していないために、メーカーサポートも限られる。メーカーオリジナルの機器であれば別であるが、その場合、まず起きないようなトラブルだろう、と今も思う。
公演当時、「あの時もっとこうすれば良かった」という、一種の後悔的なことはなく、できる限りのトラブルシュートは行なったと、今思い返しても偽りなくそう思うが、現場が終わってみて、他のツアーにMedia Server Techとして参加し、人の仕事を見させてもらった時に、「あぁ、なるほど…」と痛感することが多々出てきたのは、ポジティブに言えば、少し成長できたと、自分の気持ちの中に留めて現在に至る。
Part 2 – Lighting lead / 結局同じこと。
並行して、友人との繋がりから、アメリカ最大手の照明会社から、Lighting Leadとしての仕事を受けた。Lighting Leadは、Crew Chiefとほぼ同義で、結局同じことである。
最初の案件としては4月にLAで行われたCercle Odyssey。( YouTubeにも出ているので、観てもらえればわかるが) 物量もあり、大規模公演の部類に入ると思う。話が来たときに、仕事を受けるか迷ったのは、前述の通り、Programmer/Operator 一本で行こうと思っていたから。一週間ほど迷って、自分の力量というか、自分の「現在地」を見てみよう、と仕事を受けた。これまでCrew ChiefとしてはUpstaging社に属しており、 そもそも話をいただいた会社で仕事をするのは初めてだったので、純粋に力量を測るにはもってこいだと思ったのも、少々無理して仕事を受けた要因の一つである。
前述の通り、お初コラボであるため、まずその会社が何の機材を所有しているのかがわからず、仕事を受けた段階で「所有機材のリストが欲しい」と、いわゆるバイブルのリクエストしたが、吸収合併を繰り返してる手前、そんな丁寧なものはなく、自分の経験から「これが欲しい」とオーダーして、「その場合、これになります」というやりとりを、担当のTechnical Project Managerと繰り返して、システム構築を行なっていった。
例えば、「LuminexのGigaCore Switch、Nodeが欲しい」とリクエストすれば、会社が所有するVIA12などのPathway系になっていく、という具合。個人的にAraneoでシステムをモニタリングしたいと考えていたが、それは叶わず、その代わりにPathwayでできる限り統一して、Pathscopeでのモニタリングになった。
自分以下、10人のLighting Techに参加してもらったが、幸いにも信頼のおける人が集まってくれて、なるべく彼らのやりやすいようにプランを柔軟に変更した。各社なりの「常識」みたいなものが違うのは当たり前だと思っていたので、倉庫準備の間に彼らとよく話をするようにし、細かいことで言えば、True-1 Jumper で引き回したいのか、L6-20で引き回したいのかなど、できるかぎり変更した。ツアーではないので、ケーブル等作り物にすることができず、当日仕込んで配線する、ということも考慮すると、たとえ彼らの既成概念で仕込んでも、ミスが起きないように、ということである。既成概念というと言葉が悪いかもしれないが、リスクマネージメントとしては結構重要である。
MA3 Full を3台、Light を2台に加え、NPUを8台、Switch、Nodeに関してはその倍数くらいを各所使用したが、自分の過去の現場からの「トラウマ」として、MA-NetによるKnocking Error をかなり恐れた。そのため、NPUは基本的にParamaterの解除のみにし、Bi-Directonalなものではなく、sACNで一方向にシンプルにしたのは、賢明だったと今でも思う。ただ、他のデザイナーが入り、Resolumeを使用するシステムのみ、Art-Netを使用した。
Part 3 – Formula 1 Las Vegas
先の会社の繋がりで、そのままFormula 1 Las VegasのLighting Leadの仕事も受けた。ポジションの正式名は、「Site Wide Lighting Lead」。Site Wideとは、いわゆるレーストラック全体を指し、7つのゾーンと、1つのフェスティバルステージに分割された区域における全ての照明を総括して、オーガナイズする役割である。
約30種類に及ぶフィクスチャータイプを、合計で約6500台使用した。アドレスやシステムラックの位置などを私が決めて、ケーブルの発注から電源の容量計算、もちろんパッチ表などの作成を全て行なった。終盤になると、Super Bowl のハーフタイムショーなども手がけてるネットワークチームに別途入ってもらい、IPアドレス、ファイバーの構成などを詰めてもらったが、これにはだいぶ助けられた。Zoom Meeting毎に出る変更に追われ修正していると、そこまで手が回らないからだ。
この話を受けたのが6月で、実働7月から毎週のようにZoom Meetingが行われ、次回のMeetingまでにあげなくてはならない書類作成に追われるという習慣を、約3ヶ月…。 その間、日本にいれば、Zoom Meetingの時間は日本時間で大体深夜2時から。遅くて朝方5時から。そのため、10月末からの仕込み前には、私自身、ほぼグロッキー状態で、久々体調不良を起こしたが、そのままLas Vegasへ移動し、会社倉庫に出勤した。頭痛が酷くなる中、会社倉庫と現場下見に追われる日々には、本当に死ぬかと思った。
合計31人のLighting Techと、8人のNetwork Techに入ってもらっての、「仕込み開始日」前には体調もだいぶ回復し、約20日間に及ぶ仕込みも、事故なく乗り切ることができた。これは紛れもなく皆一人ひとりの努力による「Team Effort 」の賜物である。
自分の経験上、書類がしっかりできていれば、現場での負担が軽くなることはわかっていたので、書類作りの段階でいかに「苦しめるか」が重要だった。その通り、だいぶ疲弊するほど書類を作り込んだので、実際の現場では、皆に自分の書類の意図を伝えるのと、トラブルシュートや追加機材への対応に専念するだけで、朝から晩までゴルフカートで各ゾーンを移動しながら、ほとんどケーブルや灯体に触ることなく、デザイナーやプロダクション、各ゾーンのチームからの電話対応に追われていた。
ゾーンごとに無線のチャンネルが分かれていることや、最長で数マイル離れたゾーンもあるので、皆、私に用がある時は、電話をかけた方が手っ取り早かった。そのため、朝フル充電されていた、ほぼ新品のiPhone 16 Proが、昼前には電池が30%を下回る通話量で、大体1分間、携帯から手を離してしまうと、着信やメッセージが必ず5件以上は溜まっているような状態の毎日であった。
Part 4 – どう感じたか。
Formula 1というと、アメリカに限らず、どの国でも、「代表的な大規模イベント」の一つだと思う。アメリカでのナイトレースで、そのチーフ仕事を日本人がやっている、と考えると、光栄であったし、やり切った今、自分で自分を評価できる、と素直に思えた。もちろん、周りのサポートには、感謝してもしきれない。振り返ってみて「自分にしかできない仕事だった」と感じれた一方で、それは周りが作ってくれたもの、であるとも強く感じる。
Lighting Lead/Crew Chief 、前述の通り同じことではあるが、Cercle Odyssey とFormula 1、両方を総括して言えば、System Designer / Director でもあったし、むしろ大半はその領域の働きを行なったと思う。しかしながら、そのようなタイトルは、ごく一部のArticleで見るだけで、それを確立して食ってる人がいるかというと、私はそんな人を聞いたことがない。
FOH Techも同様の部分があると思うが、基本的には現場が大規模になった時に発生するようなポジションであるからだと思う。ただ、そのようなタイトルの確立を模索して行けるような現場に従事し続ける、という新しい目標にも繋がったかなと、「少し」だが光が見えたのは、今年の大きな成果である。
Crew Chiefと言うだけでは、名前が残ることはほとんどないので。
Part 5 – 終わりに
前述の通り、Janet Jacksonの長期公演と並行しての大規模現場2件と、幸運にもMedia Server Techとして誘っていただいたアジアツアー1件、年間を通して全て並行するようなスケジュールで行った。そんな中、年末の現場が飛んでしまい、ちょうど精神的にも、身体的にも、Burn Out寸前であったために、これを書いている現在は休養中である。LDIに行くことも考えていたが、スケジュールが混沌とし過ぎていて、また変更が多く不透明過ぎて、早々に諦めてしまっていた。
少し話は変わり、自分への対価のことについて、ここで少し記載したい。
唐突だが、Programmer やOperatorは、単価が高い。ただ、それは自分で様々なソフトウェアを購入したり、スペックに応じたPCの購入をはじめ、そのポジションにおける必須アイテムのようなものも高額であるから、そこへの対価が含まれている、ということを忘れてはいけない。ソフトウェア購入後も、それを活かすために自身で勉強もしなくてはいけないし、もちろん、その研鑽の日々に給料は発生しない。
Crew Chiefであっても、最新版のVectorworks はもちろん必須であり、Lightwrightをはじめ、その他Excel などは言うまでもなく必須。また、最近だとMVRからの変換によるパッチシートのやり取りなどにも精通してないと、仕事にならない。Notionなどのオーガナイズシートなども理解していないと、プロダクション全体の進行についていけない場合もある。Techレベルであっても、DMX Catなどは個人持ちである。よく給料だけを聞いてくる人が多いが、その辺の「何への対価が含まれているか」が見えてないな、と思う。受け取る側だけでなく、これは時として支払う側にも、強く感じる。
また、自己スタイルを固定してしまって現場を繰り返すだけだと、「逆に置いてかれてしまう」場合もあると感じる。都度新しいものを取り入れる柔軟性、自分で調べて咀嚼する時間とコミュニティの形成、その時間的余裕を生むだけの経済力。このバランスが難しいな、と。ProgrammerとCrew Chief を並行して行なった今年、「突きつけられるように」強く感じた。
文 & 写真 – Yoshi



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